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東京地方裁判所 平成元年(ワ)158号 判決

東京都大田区萩中二丁目七番九号

第二北海荘

原告

原田正幸

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

長谷川信

右指定代理人

渡辺光弥

高橋孝二

小川健

和田千尋

馬場博康

岩田耕一

櫻澤昌二

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一事案の概要

原告は、昭和六〇年二月以降東京都大田区所在の萩中通り商店街に位置する肩書の住所に居住している者である(乙第五号証)。

萩中通り商店会は、昭和五〇年ころ、萩中通り商店街に装飾街路灯三五柱を設置し、昭和六〇年六月ころ、そのうち一八柱の装飾街路灯につき車道から約四・五メートルの高さの位置にスピーカーを取り付けて同商店会の商業宣伝放送を行っている(甲第一号証、第八号証、乙第三、第四号証)。

本件において、原告は、右装飾街路灯及びスピーカーが道路法、道路交通法、有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律、有線電気通信法等の取締法規に違反して設置された違法なものであり、被告の関係各省庁はこれを取り締まるべき義務があるのにこれを放置してきたばかりでなく、被告の行政機関である蒲田税務署が右スピーカーを利用して納税に関する放送を行ったことにより、右スピーカーによる騒音被害に苦しんでいるとして、被告に対し金一〇〇万円の慰謝料の支払を求めている。

これに対し、被告は、被告の行政機関である蒲田税務署が有線放送設備を有する萩中商店会その他管内の商店会等に広報文の放送依頼をするに当たっては通常の音量による放送の依頼をしており、これまで大音量で放送されたため騒音で悩んでいるといった苦情は原告以外の者からは聞いていないところであるから、原告の主張する騒音被害なるものは、原告だけに騒音と感じられる程度のもの、すなわち地域共同生活をする上での受忍限度内の音量というべきものであるのみならず、昭和六二年六月以降、萩中通り商店会は、装飾街路灯に取り付けたスピーカーによる宣伝放送時間を自主的に規制し、とりわけ原告の住居に最も近接した装飾街路灯のスピーカーについては配線を切断して音が出ないようにしているのであるから、スピーカーの発する騒音により苦しんでいるとの原告の主張は理解できないなどと反論している。

第二争点に対する判断

原告は、萩中通り商店街の装飾街路灯の一部に取り付けられた同商店会の商業宣伝放送用スピーカーによる騒音被害に苦しんでいると主張する。

そこで、検討するに、甲第二二号証及び乙第五号証中には原告の右主張に沿う趣旨の原告の供述が記載されているものの、他方、乙第四号証によれば、原告以外の萩中通りの住民で前記スピーカーの音量について苦情を言う者はいないことが認められ、右認定事実に照らせば、前掲甲第二二号証及び乙第五号証中の原告の供述部分は直ちに信用することができず、他に前記スピーカーの音量が受忍限度を超える程度の違法なものであることを認めるに足りる証拠はない。

してみると、原告には慰謝料の請求を是認すべき程度の騒音被害が生じているものとは認め難いから、その余の点について判断を加えるまでもなく、原告の本訴請求は理由がないものといわざるを得ない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 土肥章大)

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